届け、世界からのメッセージポスター
2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。その時何人ものデザイナーから美術館やスタッフの安否を気づかうメールや震災へのショックを作品にした画像が送られてきました。デザイナーたちがこんなにも私たちに心を砕いていることに感激し、5月、被災地の人たちに励ましのメッセージポスターをぜひ見てもらいたいと考え、「大震災から未来へ」をテーマとし制作のお願いをしました。しかし、届いたポスターをどのようにしたら東北の人たちに見てもらえるのか、またこんなオートクチュールのような依頼にデザイナーたちは理解を示し、制作してくれるのだろうか、など困難が予想されました。しかしともかくこちらからのメッセージを発信したところ、私たちの予想を超えた19ヵ国、70名から、111点のポスターが集まりました。
そしてまずは当美術館(第一次募集ポスター展2011年10月22日?12月22日、第二次募集ポスター展2012年1月25日?4月27日)で展示し、インターネットで発信するまでにこぎ着けました。
それにしても、東北地方で展示できないかと、仙台市立向陽台中学校英語教諭で私の学生である仙台市在住の羽田憲史さんに相談をもちかけたところ、思いがけなく「できそうですよ」との返事をもらいました。これ幸いと、その後2人でバタバタと準備をつめると、3月に向陽台中学校、4月に石巻専修大学でポスター展が開催できることになりました。
仙台市立向陽台中学校(3月1日~23日開催)は仙台市の北部の高台にあります。地震の直後は校舎のひび割れ、敷地の地割れがひどかったそうで、訪問した3月1日も崖の復旧工事の最中でした。私はそこでは3年生4クラスの美術の時間にポスター鑑賞会をさせていただけることになりました。ただ飾るだけではなく、ポスターに込められたメッセージを理解してもらおう、という狙いです。展示場所は多くの学生が行き交う廊下でした。ポスターと見る人との距離が近く、狭さがかえってよかったように思います。鑑賞のヒントをほんの少し与えると、中学生たちは様々に個性的なポスターの意図を一生懸命自分なりに読み取ろうとしていました。その姿に彼らの内面の柔軟性と弾力性を見た気がしました。展示中は地域住民の方にも解放され、中学生のほか先生たちが友だちを誘うなど、多くの方に見てもらえたようです。
石巻専修大学(4月2日~27日開催)は市街地の端にあって震災直後から避難所やボランティアのテント村、自衛隊の救援活動の前線基地となったところです。モダンな建物と広い芝生が広がるキャンパスで、そこの立派な図書館の一角を展示コーナーとしました。現在石巻の被災地は、津波によるガレキは撤去され更地になっており、海岸沿いに使えなくなった車が山積みにされています。1年以上経った今も半壊した商店街や住宅地の一部が放置されたままの所もあり、大学の周辺には仮設住宅が設置されていました。
記念講演会は4月17日に行い、今度は学生や先生方と世界のデザイナーからのメッセージを読み解き共有し、また意見交換も行い有意義な訪問になりました。
このような展覧会を東北の人たちと一緒になって開催できたことは私たちにとっても大きな喜びです。また「被災地の人たちを励まし、復興への足がかりとなる」というテーマに快く、ポスターを制作して送ってくださった世界のグラフィックデザイナーたちの深いおもいに感謝したいと思います。
日本国際ポスター美術館ディレクター
愛知産業大学教授 加藤由朗 (2012.7)
左/2011年5月11日の石巻、右/2012年2月16日の石巻
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